2019年2月28日木曜日

【ネタ記事】人類の原点目指し ~そうだ、石器作ろう~

 仙台も徐々に冬へ差し掛かる12月、筆者は仙台の寒さに敗北し、二度寝続きの自堕落な生活を続けていた。貴重な日曜日を無残な半日休みにしてしまう罪を重ねる筆者だったが、平日13時に起床し見事な遅刻をした瞬間、さすがに己の自堕落さに危惧の気持ちが芽生えた。このままでは寒さに負け寝ぼけているうちに春も過ぎ、平成時代すら終わってしまうのではないか。入学した頃のやる気に満ちた自分はどこに行ってしまったのか。筆者は若さと気力を求めて原点回帰を模索する。原点……そうだ、石器、作ろう。唐突に石器作りの女神が舞い降り、祖先をさかのぼって原点回帰し、平成における新石器を作れとささやいた。若干原点に回帰しすぎた感がないわけではないが、先祖に倣って勤勉に石器を作ることで自堕落さに打ち勝てるかもしれない。勢いのまま筆者は立ち上がった。平成の新石器をこの手で作り出すのだ。


 しかし一人孤独に石器を作る光景は、想像するだけで涙が出る。部員に呼びかけたところ、先輩Nが異様なほどの笑顔で「楽しそう! 頑張って作ろうね!」と協力を申し出てくれた。忙しい12月の貴重な時間を消費してしまうというのに、大変な喜びようだ。先輩Nの優しさに感謝する一方で、「何が彼女をここまで駆り立てるのだろう」という純粋な恐怖に筆者は一人震えた。「平成最後」という言葉は人を狂気に陥れてしまうのかもしれない。

 「まずは石と触れ合って友好を深めよう」と決めた筆者たちは河原へ向かった。初めに打製石器のようなものを作ろうと試みる。うまく打ち欠くことができず序盤は難航。打ち付けてみるものの石の意志は固く、少量の粉しか生じない。「非力な報道部員には無理があったのでは」と諦めかけたその時、課題への憎しみを高めた先輩Nの打撃がさく裂! 石は見事に打ち欠かれた。その後こつをつかんだ先輩Nは、社会の不条理への鬱憤を込めて強く石を打ち欠いていく。「社会の闇の縮図みたいですね」という筆者の言葉は、寒空にむなしく溶けていった。

 次に磨製石器のようなものを作ろうと試み、筆者たちは石で石を擦り始める。ゴリゴリという音を立てて粉が生じ増えるにつれて、打ち欠かれた部分が丸みを帯びていく。時間制限を設けて挑戦したが、短時間でも予想より石器らしい形になり、筆者たちは歓声を上げる。幼稚園児のおままごとのようだと言ってはいけない。石器作りに魅了された大学生2人は、自分自身に職人意識が芽生える気配すら感じていた。

 こうして打製石器のようなものと磨製石器のようなものを作り上げた筆者たちだったが、平成最後と銘打つのならもう少しオリジナリティが欲しい。頭を悩ませた結果、文明の結晶である紙やすりを使って石器を作ることになった。先輩Nと2人で一つずつ石器を作ることとする。せっかくのマイ石器ということでセット感のある名付けをしたのだが、大人の事情により伏せさせていただきたい。そこで便宜上先輩Nの石器を「石器くん」、筆者の石器を「石器ちゃん」と呼ぶことにする。

 冬季休業中、年末年始もそれぞれ石器と一緒に帰省。親にけげんな目を向けられても筆者たちはめげない。日々石を削り、育成日記をつけ続ける。「石器くんが実家に到着。これから母親の前で削り、実家の洗礼を浴びせます」、「今日の石器ちゃんはご機嫌。心なしかいつもよりも協力的に思えます」……。2018年も末にして正気に目覚めた先輩Nが「紫上を育てる光源氏みたい」と記し、余波で筆者も幾分か正気に目覚めた。なぜ光源氏の気持ちにこんな所で寄り添えているのだろう。平安から約千年を越えて、石を削る人間たちに共感された光源氏を思って胸が痛んだ。だが筆者たちはもう止まれない。「このとげとげしい石たちを丸め込まなければならない」という熱い思いだけが筆者たちを突き動かしていた。石器くんと石器ちゃんは我々の紫上なのだ。

 石器ちゃんの愛情の裏返しか、途中筆者が2度熱を出すハプニングがあったものの、無事に年が明け石器は完成した。先輩Nが削った石器くんは石包丁と言えるほど鋭く磨き抜かれた。筆者が削った石器ちゃんは凸凹部分が残ったものの、ラストスパートで一点に特化した結果、それなりの出来となった。筆者たちは初めての石器作りを成功させた達成感に浸りながら、来たる平成の終わりに思いをはせる。「千年後にこの石器が発見されて、平成が誤解されたらいいのに」。ふとそんな危ない思考が筆者の頭をよぎった。

 平成最後の新石器と銘打ったとはいえ、筆者たちはずいぶん遠くまで来てしまったような気がする。高校時代の世界史で教わったことは何だったのだろう。石器くんと石器ちゃんを愛でつつ、筆者は母校の方向に深く土下座をするのだった。

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【ネタ記事・受験生応援】センター解いてみた ~これが東北大生の実力だ!~

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